熱中症の労災関連の法律についてご存じでしょうか?
熱中症対策を進めるには、「労災」や「安全配慮義務」について理解を深めることが大切です。
そこで、弁護士の先生にお話を伺いしました。
安全管理担当者なら必ず押さえておきたい「安全配慮義務」や熱中症が発生したときの「賠償責任」について詳しく解説していただきます。
※前回までのコラムはこちら
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シリーズ「熱中症と労災」弁護士に聞いてみたVol.4
この対談に登場する専門家
魚住 泰宏 氏
弁護士。平成5年大阪弁護士会登録。平成26年大阪弁護士会副会長。令和2・3年日本弁護士連合会研修委員会委員長。日本労働法学会会員。経営法曹会議幹事。
人事労災に関する法律相談・紛争代理、労働関係の執筆・講演など幅広く活動する。
この対談に登場する専門家
平山 直樹 氏
弁護士。令和元年大阪弁護士会登録。
人事労災に関する法律相談・紛争代理に積極的に取り組む。
「労災」と「安全配慮義務違反」は補償や損害賠償が認められる場合の根拠が異なる
—— 前回は、安全配慮義務違反における、使用者(企業)の責任について伺いました。使用者の安全配慮義務に違反がなくても、労働者(従業員)が業務中に熱中症になれば労災認定されるのでしょうか?
※前回のコラムはこちら⇒Vol.3 安全配慮義務違反の3つの基準と企業が負う責任
魚住:「安全配慮義務」は使用者の配慮、すなわち行為や対策・措置を問題にしていますので、きちんと配慮を尽くしていれば、安全配慮義務を果たしていることになりますが、この場合も労災が認定されることはあり得ます。
平山:例えば、熱中症労災が認められる要件はおおむね次のとおりです。
1.業務上の突発的またはその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること
2.当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること
3.業務に起因しないほかの原因により発病(または増悪)したものでないこと
魚住:また、日射病についてではありますが、業務上疾病に該当するか否かについては、「作業環境、労働時間、作業内容、本人の身体の状況および被服の状況その他作業場の温湿度等の総合的判断により決定されるべきものである」との通達があります。(昭 26.11.17 基災収第 3196 号)
—— 労災と安全配慮義務の違いはなんでしょうか?
平山:補償又は損害賠償を請求する場合の根拠が異なります。使用者が損害賠償を請求される根拠は、大きく分けて「不法行為」と「債務不履行」の2つです。不法行為については使用者の「使用者責任などの不法行為責任」が、債務不履行については使用者の「安全配慮義務違反」がそれぞれ問題となるわけです。
—— 債務不履行というと、Vol.3で解説されていた「労働契約法第5条」に基づくのでしょうか?
魚住:はい。おさらいになりますが、労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。つまり、使用者は労働者が業務上負傷し、または疾病を負わないようにするために、労働者が安全に就労できるような環境を整える等、生命・健康を危険から保護するよう配慮する義務があるということです。
平山:使用者が安全配慮義務を怠り、労働者にとって危険な状況が放置されたことを原因として労働者が負傷又は疾病を負った場合には、使用者は労働者から、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を追及されます。例えば、屋外の現場において気温や湿度が厳重警戒レベルにあったにもかかわらず労働者に作業を続けさせ、具合が悪くなったことを認識した後も放置し、労働者が熱中症を発症したようなケースでは、使用者の安全配慮義務違反が認められる可能性が高いでしょう。
魚住:この場合、使用者側は「熱中症が疑われる労働者に対し適切に休憩をとらせ、回復しない場合は早急に救急車を呼ぶ等の対応をする」という義務に違反したということになります。
—— 逆に、安全配慮義務違反が認められないのは、どういった場合ですか?
平山:不法行為・債務不履行責任のいずれも、使用者に、労働者が負傷又は疾病を負うことに関する故意または過失が存在することを前提としています。したがって、使用者が十分に配慮を尽くしていたと認められる場合には、使用者に対して損害賠償を請求することはできません。先ほどの例なら、職場環境の管理、労働者の安全確保や安全教育、健康管理の徹底が十分に行われていたにもかかわらず、労働者側の個別的な要因(寝不足など)で熱中症が発生したなどの場合には、安全配慮義務違反は認められない可能性があります。
—— 他にも、安全配慮義務が認められた場合、認められなかった場合を知りたいです。
魚住:では、次回は判例をもとにそこを解説していきましょう。
※2022年に「熱中対策研究所」で掲載していたコンテンツを転載しています。
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